「Ze空庵」 設計:川口通正
6月29日(木)の午後、川口通正さんの新作「Ze空庵」を見学させていただきました。
既存の平屋部分と土蔵を残しつつ、息子さん世帯の住居を上手に連結させています。
既存部分との屋根の取り合いに大変苦労されたそうです。
全体的に川口さんならではの「和」の空間です。特に軒や庇の使い方がとても上手だなぁ、と感心することしきり。
2階の食堂は高さのある勾配天井に、木部を茶色に染め、壁を卵色の漆喰塗りにしたなんとなくリゾート風のインテリアです。
この部屋で、建主のSさんからお酒をご馳走になってしまいました。
しかもSさんは、わざわざ川口さんの生年の1952年のワインを開封。
ドサクサまぎれに私もご相伴にあずかりました。ありがとうございます。
とても居心地が良く、幼いお嬢さんと遊んだりしながら、完全にくつろいでしまいました。
今後も既存部分の屋根替えをしたり、土蔵を塗り替えたりと少しずつ手を入れていく予定だそうです。
これはもはや一軒の家づくりを超えて、ひとつの町並みを造る仕事です。
今後のさらなる進化が楽しみですね。
「軽井沢新スタジオ」 設計:アントニン・レーモンド
建築家・濱田昭夫さんのご尽力で、レーモンドの「軽井沢新スタジオ」を見学することが出来ました。
当時のレーモンド設計事務所は、夏になると一部のスタッフがここへ移動し仕事をしていたそうです。
木立の中、赤い鋼板屋根が見えてきました。
本来はこの上に、さらに茅が葺かれていました。
材料の入手難などから当面やむを得ず鋼板のままにしておられるそうです。茅葺きをするには、材料・職人とも確保するのが大変なのです。
中へ入るとあの有名な現場打ちのコンクリート暖炉が!
その太っちょで愛らしい姿形にしばし見とれていました。
この暖炉はとてもよく燃えるそうです。
小屋組は一見、民家風で粗雑なものに見えますが、垂木の配り方などを見ると十分に検討されたことが分かります。
レーモンド夫妻の寝室には2つのベッド(昼はソファーとして用い、夜は手前に引き出してベッドにするそうです)がありました。
とても質素な、しかし素敵な部屋ですね。
暖炉の間には建築家自らデザインした家具が当時のまま置かれています。
椅子は一脚ずつ微妙に異なります。少しずつ改良を加えていったそうです。
レーモンドからこの家を譲り受け、とても大事に維持されている現在の所有者(レーモンドのお弟子さんです)から、この家にまつわる沢山の興味深いお話をうかがいました。ありがとうございました。
優れた建築には人を突き動かす力があるんだ、ということを再認識した午後でした。
06年11月2日追記
スタジオ内に飾られていたレーモンドのスケッチが小林英治さんのブログに掲載されています。あわせてご覧ください。
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「脇田山荘」 設計:吉村順三
吉村順三の「脇田山荘」。これまでに数回、外から眺めたことはありますが、中へ入るのは初めてです。
とても期待していました。
低く抑えた勾配天井の心地良さ。
見学に参加した家づくりの会の建築家達全員が幸せな気分に浸っていたはずです。皆さんいつもと違って寡黙でしたから(笑)。
紫色のカーペットが色・素材とも空間を引き締めています。木の色との調和も良し。
平面計画の恣意的に思える屈折も、訪れてみると、ただただ気持ち良い……。
上の写真は玄関脇のブラケットです。白熱灯を板で覆っただけの素っ気無いものです。
でも、この家にはよく似合っています。
期待にたがわず素晴らしい住宅で、あらためて建築家・吉村順三の凄さを思い知らされました。
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「旧三笠ホテル」(重要文化財)
小瀬温泉の旅館に一泊した翌日、「旧三笠ホテル」(1905年竣工)を見学しました。
私はかつて函館で「旧金森洋物店」(現函館市立郷土資料館)の保存修理および活用工事のお手伝いをしたことがあり、
以来明治期の洋風建築には興味をそそられます。
このような様式建築は、一部の人々を除いて我国の建築界では敬遠されがちのようですが、図面を書いたり工事をするのはとても面白いのです。
もっともかなり根気がいりますが……。
上の写真は上げ下げ窓の基本ディテール。釣り紐が見えています。
カーテンやモールディングがお洒落。
天井には皮付きの白樺丸太を用いるなど軽井沢らしさも演出されています。
国宝や重要文化財の建造物を見ていつも思うのですが、活用されていなければミイラと同じです。
この建築も、是非ホテルとして営業再開してほしいと思います。
私だったら喜んで泊まるのですが……。
「聖パウロ教会」 設計:アントニン・レーモンド
吉村順三の「軽井沢の山荘」を見学した後、「聖パウロ教会」へ行きました。
すると駐車場に1960年代初期型のビートル君を発見。
まったく関係ないですが、写真を撮らせてもらいました(オーナー様、ご容赦)。
この教会はこれまで何度か訪れていますが、ヒューマンスケールというのでしょうか、実にちょうどよい大きさですね。
他宗教の場合、例えば仏堂でも、このくらいの規模が最適だと思います。
隅木の下端を削いで軒先を軽快に見せながら、木口にはしっかり塗装を施してありました。
先に書いた吉村順三の作品もそうですが、基本に忠実で、且つ、美しいのです。
私も、こういうものを目指さねばなりませんね。
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「軽井沢の山荘」 設計:吉村順三
6月24日、私が参加しているNPO法人家づくりの会の会合があり、泊りがけで軽井沢へ行ってきました。
その際、建築家・本間至さんのご尽力で、外観だけですが「軽井沢の山荘」を拝見するという望外の機会を得ました。
斜めから緩やかに登りながらのアプローチ、木立の中にふわりと浮かぶ木箱、などなど語りたいことは山ほどありますが、
もう何人もの方々によって語り尽くされた名作ですから、私のような若造はあえて何も申しません。
それでも一言だけ。
意外であったのは、作品集を見て不規則かと思っていたコンクリート打放しの型枠の割付が、きっちり計算し尽くされていたことです。
粗野な風貌は意図的だったのですね!
ともかく、何もかもが素晴らしい!
佇みながら、拙作「水盤のある家」は、知らず知らずこの作品に大きな影響を受けているなぁ、と感じていました(かなり僭越ですが、ご容赦)。
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6月15日(木)に大久保の淀橋教会で行われた東京少年少女合唱隊のコンサートへ行ってきました。
この教会は鉄筋コンクリートのHPシェルを組み合わせた、現代的な美しさを持つ、非常に興味深い建築です(設計:稲富昭 構造:増田一真)。
荘厳な雰囲気の中、宗教曲の合唱を聴くと、異教徒の私でも深く心を打たれます。
この日は寝不足だったので眠ってしまうことをとても恐れていたのですが、結局は最後まで夢中で聴いていました。
特に「赤とんぼ」(作曲:山田耕作)には、幼い頃の色々な思い出を呼び起こされ、涙を流しそうになる瞬間も。
元気を沢山頂いた一夜でした。
昨日、工学院大学の谷口宗彦教授から建築家の濱田昭夫さんを通じて5月27日の市民講座を聴講した学生さんの感想文を頂戴しました。
私の講義の際、スライドの不手際があったので「分かりにくい」と書いている学生さんが数名……。
誠に申し訳ありませんでした。
それでも、建築家の山本ミヤ子さんから頂いたアドバイスに従って、分かり易い図と文言を投影したことが、学生さんの理解の助けになったようです。
もっとも、短時間で分かり易くする為に極端な類型化をしましたので、実際に建築構造を指導されている宮澤健二教授にはご迷惑だったかも……
と反省しています。
そんな中、懇親会でお話した学生さんが、私の「机の上にコップを置く時にその人の礼儀作法が分かる」という話を、きちんと理解してくれたのは嬉しかったです。
私のような者でも、多少は人様のお役に立てたのかな、と思うと今日はとても好い気分です。
学生諸君の未来に乾杯!!
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「Apartmentなかなか」 設計:泉幸甫
5月21日(日)の午後、泉幸甫さんの新作「Apartmentなかなか」を見学に出かけました。
家から徒歩で30~40分の距離。天気も好いので、散歩がてら歩いていきました。
門をくぐり素敵な庭を眺めながら階段室に入った途端、空気が一変します。
こんな階段室を経由して自室へ至る居住者はなんと幸せなことでしょう!
1~2階が賃貸アパートで、3階がオーナーの住居となっています。
3階のドアを開けると、バルコニーにて既に宴会が始まっていました。
そこには泉さんを中心に、家づくりの会のお仲間、小林英治さん、藤原昭夫さん、田中ナオミさんらのお姿も。
泉さんから「ほら、コッチコッチ」と声をかけていただき、見学もそこそこにドッカと座り込んで、宴会に参加してしまいました。
後から川崎君子さん、川口通正さんも加わり、お酒を頂きながら、泉さんからこの建築についてのお話をうかがいました。
1~2階は2つの階段室を耐震コアとしたRC造、最上階は一部RC壁を併用した鉄骨造となっています。
構造上では建築基準法による規定の2倍以上の安全性を確保したそうです。
インテリアはもちろんのこと、外構や階段室などの共用スペースに至るまで、非常に細やかにデザインされており、
そこに居ることがとても心地好い建築でした。
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捨てようにも捨てられないもの-7「終わりに」
俗に「紺屋の白袴」などと申しますが、私の自宅は父が建てた家で、自身で設計したものではありません。
いずれ自分の手で建替えたいと思っていますが、それまでに荷物を整理しておかなければ!!
出来るでしょうか? 無理でしょうか? どっちでしょうか?
(2006年4月2日 家づくりの会HP「建築家と話そう」より転載)