現在私は40歳ですが、私くらいまでが手書きの図面を叩き込まれた最後の世代ではないでしょうか?
修行時代には、描線の太さや濃さ、果ては紙の種類や鉛筆の尖らせ方まで師匠からやかましく言われたものです。
近年、さすがに世間の動向とは無縁であり得ず、コンピューター画面上での製図、いわゆるCADに転換しましたが、
頭では理解出来ても、身体の方がなかなか順応出来ません。手書きを長く続けた結果、手を動かさないと頭が働かないようになってしまったのですね。
そこで、製図板こそ使いませんが、スケッチを沢山描いてイメージを追い求め、ある程度構想が固まってからCADで図面を引くようにしています。
その時スケッチを描く紙には、コピーをして不要になった紙の裏面などを使います。これが溜まれば溜まるほど、設計の密度が上がっていきます。
さて、ある程度図面で形が決まってくると、模型を作成します。
模型は必ず2種類作ります。
ひとつは建主へのプレゼンテーション用の完成予想模型、もうひとつは構造チェック用の骨組模型です。
構造チェック用の模型にはスチレンボードという素材を使い、架構はなるべく一体には切り出さず、あえて細かい部材に切り分けて接着剤で組み合わせていきます。
模型は50分の1から30分の1程度の縮尺で作ります。したがって材料の強度もそれに応じて低減させた方が理にかなっているわけです。
このように作ると、計画している架構が剛強であるか脆弱であるか、とても良く分かります。手で押したり揺らしたりすれば一目瞭然です。
保存する上では木(割り箸のように細い角材)で作る模型が最適なのですが、木の模型はいささか丈夫過ぎて分かりにくいのです。
もちろん木で作る場合もあります。
木で作る模型では、構造的な検討と併せて曲線部分(軒反りや屋根反りなど)の作りやすさを検証します。微妙な曲線を検討するにはスチレンボードだと柔らか過ぎるのです。
特殊な建物では、木材の仕口・継手を検討する為に、スタイロフォームを削り出して10分の1程度の模型を作ることもあります。
このような模型を構造設計者との打合せに持ち込み、適切な構造壁の配置、部材断面の増減などを打合せします。
さらに構造模型は、大工をはじめとする職人達との工事打合せでも活用されます。
このような私の設計手法は非常に手間がかかりますが、ここまでして初めて安全且つ美しい建築が出来るのだと信じて、日々仕事をしています。
(下写真:小野吉彦 2006年11月1日 家づくりの会「家づくりニュース」06年11月号より転載 一部修正)